浅草民商
「若者を育てないと発展はない」と靴職人育成に尽力 
           
浅草民主商工会副会長 佐藤 正男氏
靴づくり職人として
 私自身は経営者というよりも、靴づくりの職人でした。たまたま仕事が上手くいき、現在、自分の本業は、2007年に従業員に会社を譲り渡してリタイアしております。
 現在は、浅草民主商工会の空きスペースを利用しまして、若い子、靴づくりの後進の指導にあたっております。ものづくりの相談に応じたり、援助したり、その人たちとの懇談会をしたりしております。
 なぜ、「靴ものづくり懇談会」というものを立ち上げることになったか、その経緯を少しお話をしたいと思います。

革靴輸入自由化問題と地場産業
 実は靴業界では、ご存知のように、革靴輸入自由化問題がありまして、(もう20年近く前になると思いますが)その時に、大学の先生の講義を聞きました。いわゆる合板業界、ベニヤ板の業界がそういう自由化される時のことを聞かされまして、靴業界も、そういう合板メーカーと同じ道を歩むという可能性が十二分にあるという話をお聞きしました。私と家内2人で参加しておりました。
日本の靴業界は輸入自由化により、製造会社の50%は潰れるだろうということも言われていました。外国の企業が日本に対して靴を輸出してくるという問題ではない。日本の企業が外国に出て靴をつくらせて日本に逆輸入をしてくる。そういうことによって、まさに足元から揺らいでくる、敵は足元にいるんだという話でした。
 実際に靴業界は、それ以降長い深刻な不景気が続いており、製靴を地場産業とする浅草北部の街は、活気を失って久しくなりました。

技術革新への取り組み
 しかし、その講演会に出席した私ども夫婦は、10年間をかけまして、そういう時代の流れに対応し、『生き残るために』、靴というもののつくり方への新しい挑戦を始めました。皆さまが今履いてらっしゃる靴に、私の技術がおそらく入っていると思います。女性の方のブーツはおそらく80%、私の技術が入っていると思います。男性の靴もですが、日本の靴づくりは、当時、はっきり言えば未成熟のところがありましたので、私はデザインも兼ねている技術者でもありましたので、どこに欠点があるのかというのは、自分では、だいたい分かっておりました。
ですから、その部分を改良する取り組みをしました。靴の機械を輸入されている業者もいますが、製靴機械を輸入するだけであって、そういう技術までは輸入しない。模械は入っても、どういう使い方をすれば良いか分からないという状況がずっと続いておりました。機械屋さんと10年間、ほんとに試行錯誤を重ねました。機械屋さんに頼んだけども作ってもらえない。仕方なく、自分で輸入した機械を手作りで改良しました。やすりと電動ドリルとかいろいろな道具を使って、改良に改良を重ねました。その結果、ヨーロッパの靴には負けないと自負できるほどの『技術革新』は出来ました。
 日本全国の靴屋さんメーカーさんが何千軒もあったんですが、ほとんどの会社が見学に来ました。そういうこともあって、職業の方は順調にいって、4人が引き継いでやっております。この不況の中でも、仕事の方は減ってはいますが、何とか生活が成り立っています。

靴の共同作業所の成功
 現在、靴づくりの世界に入ってくる若者が増えています。靴の専門学校、いわゆる、塾とか専門学校が、現在は20社ほどあるんですが、そこを普通の大学を卒業したり、高校を卒業したりして、その専門学校に入って2年ほど勉強して社会に出てくるわけですが、今度はその人たちが、更に技術を磨くことの出来る場所がないのです。
 そこで私は、浅草民商(浅草商工会館)の3階を何とか開放してくれないかという提案をしまして、そのスペースを空けていただいたのです。『民商イコール、共産党じゃないか』ということが若い子達の中にも、流れてまして、1年間誰も近づきませんでした。
 その中で、とりあえず入ってみようかという勇気を持った若者が2入来たんですが、「入ってみたら何てことはないよ。そういう気配もないし、われわれに対して非常に親切だ」という情報が、やっぱり携帯とかそういうので出回ったんです。一度にスペースは、全部塞がりました。現在もスペースが足りないほどです。

靴モノづくり懇談会
去年の春、懇談会というのを新年会を兼ねて開こうと言うことで、私の作った案内をコピーしていただいたものを手配布で2、30枚配ったら、50名来ちゃった。本当にあまりにも来たんでびつくりしたんです。
そういう状況が起きまして、若者たちは、そういう学びの場所を求めているんだということを痛感しました。これからはこういう後継者育成をやらないと、若者たちのためにやってかないと業界は確実にだめになつていくと思います。業界自体も、20年間近く若者の養成をあんまりしていませんでした。空白があるわけです。
現在、民商会館に入っている若者たちが、自分たちのブランドも立ち上げ、頑張り始めています。オーストリアに行って仕事をしたり、イタリアに行き手づくりの靴をやっている子も来ていました。イタリアのある地域は、靴産業のメッカなんですが、注文靴を作ってるのは日本人しかいない。6人ほどが日本から行って、手づくりの靴をつくるという状況だっていうことを話していました。
オーストリアに行った子が帰ってきて、手づくりの靴だけではなかなか生き残れないかもしれない。良いものを作ったからといっても生き残れないかもしれない。なぜなら、ユーロが半減した、いわゆる、ヨーロッパからの靴が日本に入ってきて12万円ほどで販売されていたのですが、それが現在は6万円。そういうことも現状で起きてるわけです。

マスコミも注目
 ほんとに若者たちは真剣になつて今、ものづくりに取り組んでいます。それは、かつての私自身の姿を思い出させるモノがあります。この不況の中でも真剣にモノづくりに取り組む若者の姿勢が注目されています。NHKさんも、カメラはまだ入っていませんが、取材の下見には来ました。この間は、読売新聞に来ていただいて、掲載していただきました。その後、朝日新聞も来ました。繊研新聞、TPMエイジなど多くの業界紙、誌でも何度も取上げられています。商工新聞や赤旗でも、何度か取り上げていただいています。

若い世代のネットワークづくりへの協力を
 今は、若者たちのために何ができるかと考えています。私は台東区ですが、台東区の廃校があるのです。田中小学校というのですが、田中小学校を何とか、貸してもらえないかということも交渉が始まったところです。
 はっきり言って年齢の増した職人さんたちが若者たちのために肥やしになってもらいたい。私のころのように自分だけで考え、工夫していては、間に合わないのです。靴産業の直面している状況はそれくらい厳しいと思います。若者たちを育て、自分たちもー緒に食べていけるのじゃないかと思っています。若者をやっぱり育てないと、自分たちも発展できない、そういう状況になると思います。そういうことで、浅草ではなかなか評判を得ているところです。ありがとうございました。
画像:報告する佐藤正男氏
報告する佐藤副会長
2月25日、全国中小業者団体連合会(全中連)が主催する『業界懇談会』(於 明治大学紫紺館)での発言内容を一部加筆再構成してあります。
画像:読売新聞夕刊から
画像:02.02赤旗新聞紙面から
画像:業界誌TPMエイジ4月号から
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